アンチ・クライスト

2009年のカンヌで絶賛だったそうだ。フォン・トリアーの映像は素晴らしい。自然、とりわけ動物をモチーフにしたカットやシーンは秀逸である。エピローグの森に群衆が集まってくるラストも印象的で「タルコフスキーに捧ぐ」というメッセージで締められている。確かに仕上がりも繊細である。しかしながら、この救いようのなさは何だろ?あまりに意味のない性描写と残忍なシーンが続く。無意味以前にいちいち大げさで、それが気になって何だかいたたまれない気分になってくる。というか、恥ずかしい。これを見ていると、もはや映画で描写したり表現することはなくなっているのかもしれないと思う。映画の終焉が始まっていることを随分前から、いやフォン・トリアーが登場した頃から顕著になってるが、とうとうここまで救いようのないことになったいるのかと思い、絶望的な気分になる。映画に対する絶望と物語の倫理に対する無力感に苛まれる。これが衝撃だったとするなら、もはや映画に大した衝撃はない。