金と芸術

「なぜアーティストは貧乏なのか」という副題が付けられている。
それほど新しい問題提起ではないが、一冊の本というのは珍しい。ただ、「一握りの金持ち」はどんな職業でもあり得る話で芸術の世界に特有な話ではない。アカデミズムの世界にもあるし、経営者の間にも格差はある。問題は芸術の分野だけがどうしてこのテーマが成立するか、ということである。
そもそも芸術というジャンルはヨーロッパの発明品でアメリカにも日本にも存在しない。実はそれほどグローバルなものでもない。ヨーロッパの特産品のようなものである。その実芸術は美術史や美術批評あるいは市場や美術館の制度を媒介として「世界」が演出されているだけである。芸術は表現や信仰という個人的な行為や信条を基礎としている以上、きわめてローカルなものである。このヨーロッパの発明品が市場化しそのスケールが大きくなったプロセスの方が問題である。本書では、その当たり前でまとまって議論されなかったことが、「格差」や「グローバリゼーション」といった問題を抜きにしてエピソードとして語られている点でおもしろい。

金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか

金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか