アプロディーテーとウェヌス

アプロディーテー（「水泡から生れた」という意）は、カオスのなかから生れて海の上で踊っていたという女神である。愛と美と性を司るギリシア神話の女神で、最高の美神。植物神・太母神（地母神）あるいは戦の女神でもあるアプロディーテーは、中東（オリエント）や小アジアの美、愛、生殖と豊穣を司る女神。であったと考えられる。シリアやパレスティナではイシュタルもしくはアスタルテーの名で信仰されていたあの絶大な支配力をもっていた女神と同じ女神である。
アプロディーテーは「泡の女神」という俗説的な起源もある。その泡はクロノスによって切り落とされたウーラノスの男性器にまとわりついた泡（アプロス、aphros）がキプロス島（キュプロス島）に漂着したとされることに由来する。女神が最初にキュプロスに上陸したことがアプロディーテーの起源とも密接に関係する。
アプロディーテーの最も有名な信仰の中心地はパボスで、今でもここの壮大なローマふうの神殿の廃墟のなかには、白い原型の像が展示されている。パボスでは、現在でも毎年春先にアプロディーテ一につかえる巫女たちが海で沐浴しその身をきよめる。
生命はまず海から生じる。海の女神の別名でもある。鳩と雀とは好色をもって知られた鳥で、海産物は今でも地中海の各地で性欲を促すものと考えられている。
アプロディーテーではローマ神話におけるウェヌス（英語読みでヴィーナス）に相当する。ということは、中東（オリエント）や小アジアの異教的なエロスをすでに古代において神学として解決していたことになる。