経済学という教養

経済学という教養

ちょっと前に出版されたものだが、最近手にとって通読したので、あえて紹介。
実は隠れた売れっ子だったりする著者のHotWiredに連載していたものをまとめたもの。
HotWired連載時に読んでいたことはあるが、かなり印象は違う。
やっぱ単行本だからなあ。
妙に啓蒙的になっているのは、ちょっと気になる。
もちろん、単行本として冴えている仕掛けもある。
そのひとつ。
ここでの経済学が、教育(人材育成)をめぐる社会階層の流動性から論じ始められていること。社会学者あるいは労働論の専門家としては、当然なのかもしれないけど、古典派やマルクス主義の学説史になりがちな経済学の教養や啓蒙の方法論をあっさりと乗り越えていて、なかなかの手さばきである。「左翼」や「マルクス主義」を論じるためにもどうしても必要な装置だしね。
もうひとつ冴えている部分。
それは、日本の戦後における「左翼」を、「日本型経済システム」の特殊性や普遍性から論じている部分。
ここはなるほどの解説で、講座派と労農派で分類されてきた「日本の左翼」の多様性が垣間見えておもしろい。できれば、もう少し精密かつ詳細な分析になって欲しかったけど。
不満も一つ。
「美学とネーション」の問題は避けられないはず。経済のモデルや国体や国力といったレトリックの背景にある国民国家の美意識=美学。文化相対主義に触れているのであれば、やはりこの辺りの議論はもう少し読んでみたかった気もする。

最後にもう一つ。
誰に支持されているのかどうかはわからないが、この手の本が増刷を続けていることは非常に喜ばしく、まだ出版界も捨てたものではないとも思ったりして。